背景・目的
イチジク果実は糖質・食物繊維・カルシウム等の栄養素の他、ポリフェノールの一種アントシアニンを含むことが知られています。我々の調査の結果、イチジクは同時期に収穫される他の果物と比べてピペコリン酸(PIP)とトリゴネリン(TRG)が多いという特徴のあることが分かりました。両物質の機能性を探索した結果、混合して与えると筋肉細胞の糖取り込みを促進する作用を持つことを見出しました。この作用は糖尿病の予防・改善や運動能力の向上などに寄与する可能性があります。そこで、筋肉細胞の糖取り込みを促進する濃度条件をさらに詳しく調べるとともに、その条件に基づく量をラットに与えて糖代謝に影響するかどうかを調べました。
方法・結果
(1)筋管細胞の糖取り込みを促進する濃度条件
ラット由来の筋肉細胞を、筋管という組織状態に分化させてから使いました。これを育てる培地にPIPとTRGを様々な濃度の組合せで添加してしばらく培養し、その後にインスリンを与えて糖の取り込みを誘導してその量を調べました。結果、PIPが2.5~40µM、TRGが0.25~4 µMの範囲で、且つPIPがTRGの10倍となる濃度で混合添加すると、細胞の糖取り込みが増加することが分かりました(図1)。
図1 PIPとTRGの添加濃度が筋管細胞の糖取り込みに及ぼす影響 ●:取り込みが増えた組合せ ×:取り込みが増えなかった組合せ *軸の目盛りは常用対数表示 **薄紫の線は、有効濃度条件
(2)ラットへの経口投与が糖代謝に及ぼす影響
健康なラット12匹を3グループに分け、比較対照群には水、低用量群には体重1kgあたり2.48mgのPIPと0.26mgのTRG、高用量群には同じく24.8mgのPIPと2.6mgのTRGを水に溶かして飲ませました。30分後、ブドウ糖液を飲ませてその後の血糖値の変化を調べる「経口ブドウ糖負荷試験」を行いました。結果、統計学的に有意な差はありませんでしたが、低用量群と高用量群の血糖値は比較対照群と比べて低い傾向がみられました(図2)。また、両物質は消化管を通じて体内に取り込まれて、血流に乗ることも確認できました。
図2.PIPとTRGの経口投与が経口ブドウ糖負荷試験における血糖値変化に及ぼす影響 *Iは標準誤差の範囲を示す **時間経過0分の値は、ブドウ糖液投与直前の血糖(空腹時血糖値)を示す
まとめ
筋管細胞の実験から、糖の取り込みが促進されるPIPとTRGの濃度条件が判明し、その条件を反映した量を飲ませたラットでは、食後の血糖値を低く抑えられる可能性が示唆されました。今後は糖尿病のラットでどうなるか、あるいは持久力など運動能力に対する効果はどうかなどを調べたいと考えています。