背景・目的
硬さは、食品を評価する上での重要な要素の1つです。したがって、古くから好ましい硬さとするための調理方法や品種などが開発されてきました。加工食品においては、加熱による食品の軟化を防ぐ方法が主に求められていましたが、近年は介護食需要の高まりを受け、食品を軟化させる方法も注目されています。
介護食では、ミキサーでペースト状にしたもの、食べやすい大きさに刻んだものがこれまでの主流でしたが、見た目が通常の食事と異なるため、食欲が沸かないという問題がありました。そんな中、酵素で硬さに関与する成分を分解することで、具材の外観はそのままで、軟らかい介護食が開発されました。この介護食の評価は高いのですが、振動で崩れやすいため、冷凍で流通しなければならないなどの制限もあり、まだ改良できる点があるのではないかと考えています。
肉、魚類では主にタンパク質が硬さに関与しており、その構造は比較的単純です。それに対し、野菜・果実の硬さに関与すると言われる多糖類(セルロース、ヘミセルロース、ペクチンなど)は、絡まり合い結合しているため、その構造は極めて複雑であり、どの成分がどれだけ硬さに関与しているかについては未だに解明されていません。もし、それらを解明することができれば、外観はそのままで、軟らかい介護食およびその製造技術の改良につながる可能性があります。
そこで、野菜の多糖類と硬さの関係を明らかにするため、まず高温で長時間加熱しても介護食品相当まで軟化しないゴボウを用い、加熱によって軟化しない理由を調査しています。
結果
加熱処理したゴボウと、複合酵素製剤で介護食相当まで軟化したゴボウについて、多糖類を段階的に抽出した後、それぞれの糖組成を比較した結果、加熱処理品では塩酸溶性画分のアラビノース含量が酵素処理品の3.1倍多く含まれていました(図1)。このことから、多糖中のアラビノースを含む構造は、耐熱性が高く、ゴボウの硬さに影響することが示唆されました。
アラビノースは、モノマーとして多糖中に散在していることもありますが、アラビナンと呼ばれるポリマーとして存在している場合もあります。そこで、アラビナンを分解する精製酵素(α-L-arabinofuranosidase:Af、endo-1,5-arabinanase:An)での処理がゴボウの硬さに及ぼす影響を調べました。Af、Anが反応し易いように、ゴボウを121℃、33分間加熱後にそれぞれの酵素で処理したところ、塩酸溶性画分中のアラビノース含量がAf処理で約60%、An処理で約30%減少しており、アラビナンの分解が確認できました。この酵素処理されたゴボウは、Af処理で28%、An処理で25%軟化しました(図2)。このことから、多糖中のアラビナンはゴボウの硬さに関与すると考えられます。しかし、硬さへのアラビナンへの関与は小さいため、アラビナン単独では加熱で軟化しない理由を説明することはできません。今後は、アラビナン以外の多糖類についても硬さとの関係を調べ、野菜の硬さを制御する方法の開発につなげたいと考えています。
図1 処理条件の違いが各画分における糖組成に及ぼす影響
① 加熱処理区:121℃、63分間加熱処理
② 酵素製剤処理区:凍結含浸法を用い、1%ヘミセルラーゼ「アマノ」をゴボウ内に含浸させた後、40℃、6時間酵素反応
図2 アラビナン分解酵素処理後のゴボウの硬さの相対比
Af:α-L-arabinofuranosidase
An:endo-1,5-arabinanase