2019年度研究助成 (2020年度研究実施)
単細胞性の陸生シアノバクテリアNostoc commune(和名:イシクラゲ)は,糸状性群体として増殖し,数センチの巨大コロニーを形成する.コロニー表面には不溶性多糖を主成分とする鞘が形成され,内部に可溶性多糖などの機能性成分を閉じ込めている.これまでの人工栽培の検討では,鞘を持たないゾル状コロニーが形成され,内部成分が培地中に流出することが課題であった.我々は,未解明であった鞘の形成機構の手がかりを得るため,各地から採取したイシクラゲの鞘形成能を評価した.その結果,長野県伊那市及び茨城県つくば市サンプルなど一部で鞘形成が確認できたが,多くのサンプルでは鞘が形成されなかった.それらを詳細に観察したところ,鞘が形成されないサンプルでは,イシクラゲ細胞周辺に多くのバクテリアが存在する傾向が明らかとなった.また,鞘を分析したところ,コロニー内の可溶性多糖と鞘を構成している多糖の間で,単糖組成がほぼ一致したことから,可溶性多糖が不溶化して鞘に変化することが示唆された.これらの結果から,イシクラゲ細胞から可溶性多糖が分泌され,それらが鞘へと変換されるが,バクテリアによる多糖の食害が深刻な場合には鞘形成されないと推測された.今後はこの仮説検討し,イシクラゲ大量培養方法を構築したいと考えている.
- 所属
- 信州大学 農学部
- 著者
- 伊原 正喜
- 出典
- 東洋食品研究所 研究報告書, 34, 159-165 (2022)