2019年度研究助成 (2020年度研究実施)
小腸上皮細胞表面に存在する非かく拌水層(UWL)は,多くの分子種が存在するムチン(MUC)から構成されており,β-ガラクトシド結合型レクチンの一群であるガレクチンは,MUC と相互作用することにより,細胞表面に格子状のバリアーを形成している.一方,ヒトの消化管粘膜は一生涯を通して乳製品に接触し続けることになるが,乳製品や添加剤に含まれている乳糖(LH)は,ガレクチン-MUC相互作用を阻害することが知られている.本研究では,ガレクチン-MUC相互作用に着目し,乳糖暴露による物質の透過性の変化の解明を目的とした.LHの暴露により,ラット小腸においてUWLが膜透過の律速因子となる経細胞経路を介した膜透過には増大が認められ,細胞間隙経路を介した膜透過には変化が認められなかった.さらに,UWLの形成が未発達であり腸管上皮細胞のモデル細胞として汎用されているCaco-2細胞においては,経細胞経路,細胞間隙経路ともにLH暴露による膜透過性の変化は認められなかった.以上の結果から,UWLにおいてMUC-ガレクチン相互作用によって生じる物理的バリアーは,消化管膜透過性に重要な役割を持ち,LH暴露による相互作用の抑制は,細胞内経路を介した物質の透過性を増加させることが示唆された.
- 所属
- 日本薬科大学 薬学科
- 著者
- 瀧沢 裕輔
- 出典
- 東洋食品研究所 研究報告書, 34, 201-205 (2022)