2019年度研究助成 (2020年度研究実施)
ゲノム編集は,生物機能の改変技術として,幅広い分野で利用されつつある.しかし,農作物を対象とした従来のゲノム編集技術は,遺伝子組換え技術に依存しているため,社会実装に多大な時間を要する.そこで本研究では,『植物細胞膜透過ペプチド:ポリヒスチジン』と『リポソーム』を組み合わせた独自の分子輸送キャリアーを構築し,植物細胞内にゲノム編集酵素Cas9を直接輸送することで,遺伝子組換え技術に頼らない植物ゲノム編集技術の開発を目指した.
ゲノム編集酵素Cas9と蛍光標識gRNAを混合し,RNP複合体を調製した.このRNPを内包したリポソームを調製し,さらにステアリル基修飾ポリヒスチジン(C17H35CONH-His20)をリポソームの疎水領域に導入することで,His20修飾RNP内包リポソームを調製した.
His20修飾RNP内包リポソームをタバコ培養細胞に投与したところ,RNPの核内輸送を確認した.さらに,NtPDS遺伝子を標的としたゲノム編集において,NtPDS遺伝子領域に2パターンのゲノム編集(塩基欠失)が誘導されることを確認した.両変異ともに,ゲノム編集効率は0.02%および0.01%と低い数値ではあったが,本研究成果は遺伝子組換えに頼らずに植物細胞の核ゲノム編集に成功した稀有な例である.
- 所属
- 鳥取大学 農学部
- 著者
- 岩崎 崇
- 出典
- 東洋食品研究所 研究報告書, 34, 167-173 (2022)