2019年度研究助成 (2020年度研究実施)
近年,2型糖尿病をはじめとした肥満関連疾患の発症は,過度な脂質蓄積によって生体内の必須成分であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)が減少する脂肪細胞の老化(細胞老化)が原因であると考えられている.細胞内NADの合成量はNicotinamide phosphoribosyl-transferase (NAMPT)と呼ばれる酵素で制御されており,高脂肪食摂取や老化によってNAMPTの発現量が減少することが,NAD量の減少に繋がるとされる.そこで,本研究では,NAMPTの発現量を増加する食品成分として,乳酸菌によって生成物である乳酸に着目して解析を進めた.乳酸には鏡像異性体が存在し,培養細胞にL型とD型乳酸を添加したところ,D-乳酸でのみNAMPTの発現量とNAD合成量の増加が示された.また,1ヶ月間D-乳酸を摂取したマウスの脂肪組織においてNAMPTの発現増加が確認できた.
これらの結果は,D-乳酸の摂取が高脂肪食負荷や加齢によるNAMPTの発現とNAD+量の低下を改善し,細胞老化を抑制することで肥満関連疾患の予防に繋がる可能性が示された.
- 所属
- 信州大学 農学部
- 著者
- 三谷 塁一
- 出典
- 東洋食品研究所 研究報告書, 34, 217-220 (2022)