5号缶を使用してミカン缶詰の熱伝達速度について報告する。ミカン缶詰は小粒の果肉を糖液につけ込んだ缶詰であって、その内容の構成からみて、対流作用による熱流が一見この種缶詰の熱伝達の主流をなすもののように考えられるが、液体のみからなるスープやジュース或いは飲料の缶詰とは相違して、果実粒を含むので実地には、加熱中の果肉の浮上密集現象に原因して、少なくとも缶の幾何学的中心点における温度変化の測定結果からして、それは加熱前期に限られるものであることを知った。
缶の幾何学的中心点における温度変化の状況からみて、加熱前期においては、対流作用もとづく熱流が、この缶詰においての熱流の主体をなすが、やがて加熱効果による果肉の浮上密集現象が現われて対流作用が妨げられ、ついには阻止されて、熱流の模式が対流によるものから熱伝導による熱琉に転移するものであることが認められた。
- 著者
- 志賀 岩雄
- 出典
- 東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,161-171(1959)