16.その六 モモ缶詰についての測定結果

モモ缶詰の熱伝達速度の測定結果について報告する。あわせて殺菌加熱不足に原因した缶詰の変敗に関与する微生物について検討し、モモ缶詰に必要な殺菌加熱程度についての算定を行った。

モモ缶詰の加熱曲線は熱流の型の転移点において温度降下の起っている現象がミカン缶詰と比較して特異な点である。温度上昇がその転移点附近に達すると、それまで、温度計の感温部をひたしていた液の温度よりも数度低い果肉が浮上し或いは膨脹して、温度計の感温部に密接して、温度降下を起させるものと推定できる。

しかしミカン缶詰では糖液に浮遊の果肉はモモとは比較にならぬ小粒であるため、果肉表面温度は液温と比較して大差はないであろうから、モモと同様な浮上密集現象が起って、熱流の型の転移が起っても、温度降下が生じないものとみられる。

缶詰モモのPh価の範囲から考えて、果実としては比較的高いpH域にあるリカク、ハクトウおよびオオクボ種のようなわが国で多産される白肉種のモモの缶詰においては、耐酸、耐熱性の有芽胞菌である酪酸菌、とくにCl.pasteurianumが警戒されねばならない。もしも以上のような細菌芽胞によって濃厚に汚染され、しかもpHが4.2以上の場合には、それの殺菌にかなり長時間の加熱(pH4.2  Brix 22°の場合4号缶で100℃38分、pH4.5 Brix 22°の場合は100℃60分以上)が必要となるであろう。

著者
志賀 岩雄
出典
東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,172-180(1959)

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