08. レトルト処理に伴う鰹だし中のうま味成分変化

レトルト処理によって内容品の風味が変化することは既知であるが,その風味変化を食品中の成分変化と結び付けた例は少ない.本研究では,昆布や鰹節からなる和風だし中の呈味性成分の分析を行い,レトルト処理前後で変化する成分の抽出とその変化が風味へ与える影響を調査した.市販だしパックから調製した鰹昆布だし中の核酸系うま味成分 (イノシン酸,グアニル酸),アミノ酸系うま味成分 (グルタミン酸,アスパラギン酸) を分析したところ,イノシン酸の大きな減少が見られた.イノシン酸は主に鰹節由来のうま味成分であると考えられることから鰹だしに着目し,うま味成分およびその関連物質について分析を行った.その結果,レトルト処理によるイノシン酸の分解とその構成要素であるイノシン,ヒポキサンチンおよびリボースの生成が認められ,その減少量と増加量に良い一致が見られた.一方でグルタミン酸量に大きな変化はみられなかった.このうま味成分の挙動が風味に与える影響を調査するため,レトルト前後の鰹だしを想定したモデル液を調製した.味覚センサー測定および官能評価から,レトルト前後でモデル液の呈味に違いがあることが認められた.このことから,うまみ成分であるイノシン酸の分解がレトルト処理による鰹だしの風味変化の一因であることが示唆された.

著者
笹井 実佐
出典
東洋食品研究所 研究報告書, 33, 63-69 (2020)