4.ポーラログラフによるかん詰の研究-Ⅸ
レッドチェリー缶詰中のスズの溶出量について

一般缶詰用に使用されているType MR鋼と高純度Type L鋼について、HD式およびET式スズメッキを施こした4種類の容器につき、特に腐食の激しいと言われているレッドチェリーを内容物として1カ年に亘り、貯蔵中のスズの溶出量及び真空度の劣化につき比較検討した結果、試験容器間に差異は認められないが、その溶出スズ量は漸増し、真空度は劣化することが認められた。

真空度の経時変化に対する交互作用が、現われている点については、缶内に封じ込まれた酸素量が限定しているため、この酸素の作用が原因であるのか、容器より溶出したスズイオンが缶材の腐食を抑制する効果が働いたのか、缶材の基礎材が単一なスズ面のみでなく、ピンホール的なスズ鉄合金層及び地金鉄面の作用等の種々の要因のために、交互作用が生じたのであろう。

即ち4種の缶詰容器材、スズの溶出量および真空度の変化につき、比較検討した結果、容器材間に有意差はなかった。

従って、レッドチェリー 4号缶詰の製造後1カ年以内の製品の果肉中のスズの含有量は、117±12ppmであることが明らかになった。レッドチェリー缶詰は、貯蔵中にスズの溶出量は漸増して、製造後1カ年後には151ppm程度となり、缶詰の真空度は劣化する。

著者
小田 久三、岩本 喜伴
出典
東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,28-32(1965)
昭和36年度 研究発表会発表論文 缶詰時報VoL.40,№7(1961)