カマボコ缶詰の缶内面にはしばしば黒変 (Black spot)が生成する.その生成には硫化水素が主として関与していることが知られている.しかしカマボコ缶詰中の硫化水素量は他の魚貝類缶詰のそれに比べて著しく少ない.
本報ではまず,カマボコ缶詰中には本当に硫化水素が少ないのか否かを明らかにするために,カマボコ及びスケソウダラ摺身を試験管内で加熱し,生成した硫化水素量を測定した.また貯蔵中におけるその変化について調べた.更にカマボコ缶詰の缶内面に生成した黒変物中の揮発性含硫化合物の量と黒変度合との関係について調べた.
その結果,加熱直後にはカマボコ及びスケソウダラ摺身から多量に硫化水素の生成が認められたが,貯蔵中にそれは急激に減少した.黒変度合は揮発性含硫化合物の濃度の増加に伴って著しくなった.
次いで,カマボコ缶詰の缶内面の黒変生成因子を同定するために,カマボコの主原料であるスケソウダラ摺身をエタノール-水混合液で抽出し,それをイオン交換樹脂で分画し,各分画の黒変生成について調べた.またその遊離含硫アミノ酸及び揮発性含硫化合物の組成を調べた.
その結果,黒変生成因子は中性区に存在し,その中には多量のタウリンと少量の二硫化炭素及びメチルメルカプタンが含まれていた.しかし,タウリンは黒変生成には関与していなかった.
- 著者
- 長田 博光、竹内 伊公子、朽木 由香子
- 出典
- 東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,16,9-19(1985)