機能的近赤外分光(fNIRS)を利用した食品の風味評価の可能性を検討するため,人の甘味感度がfNIRS応答に与える影響を調べた.fNIRSは血行動態を計測対象としており,味の記銘部位として知られる側頭葉の応答を調べた.24人の被験者データから,甘味感度の高い被験者4名と感度が低い被験者5名のデータを選んだ.砂糖を添加した紅茶の試験では,甘味感度の高い被験者で,砂糖の添加量が増加するに従い,oxyHb濃度長変化が大きくなる傾向が見られたが,定量性に乏しかった.砂糖水の試験では,砂糖添加量とoxyHb濃度長変化に正の相関が認められなかった.しかし,甘味感度の高い被験者の方が,甘味感度の低い被験者よりoxyHb濃度長変化の変化幅が大きい可能性が示唆された.砂糖水を呈示した時の唾液分泌量を計測したところ,甘味感度の高い被験者の方が甘味感度の低い被験者より多かったことから,人の唾液分泌量と甘味感度に相関がある可能性が示唆された.fNIRS計測で味の刺激量を定量することは難しかったが,fNIRSによってヒトの味覚感度を判定できる可能性がある.
- 著者
- 大塚 貴子、隅谷 栄伸、井上 正雄、山口 由衣
- 出典
- 東洋食品研究所 研究報告書,29,65-72(2013)